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科目の概要

「人間はどこから来て、どこへ行くのか?」――これが今ほど切実に問われる時代はない。いまや「大型動物の9割が人間とその家畜」と言われるほどに地球的な影響力を高めた反面、AIやロボットの進化により唯一の知的主体としての特権性が危ぶまれている。再生医療やゲノム編集により「寿命」や「生死」の概念も再定義され、宇宙時代には「地球的常識」もリセットされる。「人間の再発明」の時代の新たなコモンセンス(共通感覚)を探る。

科目情報

履修想定年次
2年次
単位数
2単位
開講Q
1Q、3Q
科目区分
選択
授業の方法
オンデマンド科目
評価方法
確認レポート 50% , 単位認定試験 50%
科目コード
HUM-2-C1-1030-003
到達目標
そんな時代だからこそトレンドの後追いでなく、受け身で技術に振りまわされずに、「人間」としてどうありたいのか?どんなLife-style(生命・生活・人生のあり方)を選び取るのか?を主体的に考えるリテラシーを育成する。その武器となるのは「歴史」や「文化」に対する知見である。人はどのような経緯で現在のようになったのか?生老病死も歴史的・文化的にデザインされたものなら、それをどう再設計するか?21世紀の人類学的思考を磨く。
教科書・参考書
  • 竹村真一『地球の目線』PHP新書・2008年、坂本龍一・竹村真一『地球を聴く』日本経済新聞社・2012、竹村真一『宇宙樹』慶應大学出版会・2004
授業時間外の学修
各回の講義内容は繰り返し見返し、各回二時間ほど復習を行ってください。また、次回の学習内容についてもあらかじめ不明な単語や前提となる知識をWebで調べるなどして各回二時間ほど予習を行ってください。
特記事項
順次公開予定

授業計画

1
序論;「人間の再発明」にむけて

未曾有の長寿化、AIとの共進化、「人新世」の環境破壊ーー人間のありようを創造的に更新するには「人間の由来」をまず理解する必要がある。未来をデザインするために過去を知る。

2
「遺伝子」からみた人間

ゲノム編集が実用化される一方で、ゲノムという「生命言語」の本質が社会的に理解されているとは言い難い。ゲノムを改変して遊ぶまえに、このデジタル言語の精妙さにまず驚こう。

3
大脳化・子ども化・非特殊化

人間の本質は「非特殊化」――つまり専門化せず、特別はやい足も飛ぶ羽根も持たない代わりに、多様な環境に柔軟に適応してゆく可塑性をもつ。その源は「大きな脳」を持ったがゆえの「大きな不都合」?

4
「ことば」という飛び道具

人類は1万年前には大型動物を狩り尽くして絶滅させるほど巨大な影響力を持った(人類世1.0)――それは弓矢などの飛び道具以上に「言語」という飛び道具によるものだった。人類の「言語」とは何か?

5
「数」の人類誌

ソフトな飛び道具として「言語」と並ぶ威力を発揮してきた「数(学)」。それは税や資本主義の基となり、人工衛星を打ち上げ、外部の脳としてのAIを産んだ。「数学」という自己認識の鏡に映す人間の姿。

6
「お金」はなぜあるのか?

お金は時間と空間を超え、ことばや文化の違いも越える「自由」の媒体。だが、それが格差や戦争を生み、過剰な貨幣依存が不自由をもたらす。「お金」とは何か?何のためにあるのか?

7
生老病死のデザイン

病も死も、誕生も老いも「文化的にデザインされたもの」。長寿化・再生医療・デザイナーベビーなど、生老病死をリデザインせざるを得ない時代に、その多様な可能性を再発見する。

8
人間の多形進化

人類の平均寿命は百年で35才から73才に倍増。人間という種が再発明されたほどの変化だ。LGBTQ、サイボーグ技術、遺伝子改変・・「人間」の前提が変わる時代に、人間の多様な可能態をその進化史から洞察する。

9
「働く」「遊ぶ」人類誌

AIやロボット技術の発達により、人間が仕事を奪われる?あるいは「働かなくてよい」未来へ?――そんな時代だからこそ、人が「働く」ことの意味、「遊ぶ」ことの知的・生物学的な意味を根源から問い直す。

10
AIと共進化する人間

Singularityとは「人工知能が人間を超える時」でなく、AIとの共進化で「人間が人間を超える時」だ。サピエンスは言語や文字など自らの創作物との共進化で、これまでも自己を「再発明」してきた。AIと開く新たな人間の可能性。

11
「未開」の五感と身体性

AI時代に再発見される「身体知」――。ひとが自由にして脆弱fragileな、さまざまな不都合を抱えた身体を持つがゆえの未開の可能性に着目する。それは視覚中心文明のリセット=五感の復権でもある。

12
平和と暴力の人類学

文明史は、暴力の拡大とその制御の歴史でもあった。戦争と拷問・奴隷制廃止の原動力ともなってきた文字の普及(漢字や近代印刷リテラシー革命)、人間の「心のOS」の危うい進化史をたどる。

13
「神」について

宗教の話ではない。現代文明の根底にある「科学信仰」「機械依存」「データ至上主義」、その根底にある「人間観」を理解する必須要項として「一神教」的な神の由来、その特殊性、数千年来の「心のOS」更新の可能性を探る。

14
人間と地球環境〜“3つのエコロジー”

現代において「人間の更新」を構想する際、地球環境や自然との関係は避けては通れない。別講義「共創地球学」で展開した議論を、ここで人間学的な観点から再論しつつ、次代の「人間観」を提示する。

15
総括

全14回の講義の要点を包括的に振り返りつつ、「人間の再発明」に向けた近未来の社会デザインの課題や方向性を展望する。

関連科目