シラバス
入学のご案内履修登録

科目の概要

不確実で変化の激しい知能情報社会で価値の創造に踏み出すためには、まず情報社会の全体像を理解する必要がある。本授業では、このために(1)情報化を政治、経済、社会の視点から総合的に俯瞰する枠組みを示す。ここで情報化(informatization)とは、データや知識とICT(Information Communication Technology)つまり情報通信技術およびコンピュータのより高度な利用を促進するグローバルで自律・分散・協調的な活動のことである。つぎに(2)この総合的な枠組みとの関係で、情報社会の具体的な課題や争点を取りあげ、個別の課題や争点を考える際の前提となる社会科学の主要な研究を紹介する。こうした社会科学の研究は、個別の課題や争点を認識するパターン、研究の状況、解決の方策を提供するものである。この講義の全体は、つぎの4部構成になっている。①情報社会学の分析枠組みと情報通信の技術的背景、②情報社会の政策形成と政治過程、③情報社会の経済動向と政治経済思想、④情報社会の人文科学と基礎教養。この講義では知能・情報社会の観点から他の講義に繋がる導線を示す。

科目情報

履修想定年次
2年次
単位数
2単位
開講Q
1Q、3Q
科目区分
選択
授業の方法
オンデマンド科目
評価方法
確認レポート 50% , 単位認定試験 50%
科目コード
SOC-2-C1-1030-005
到達目標
多様なものの考え方を用いて分析したり、批判的に検討して未来像を打ち立てるためにはベーシックな枠組みに立ち戻って考えるのが有効だ。この講義では「情報化」を「近代化(modernization)」の一環として位置付ける。これは「情報社会」を「近代(Modernity)」という継続的な歴史変化のなかで捉えることを意味する。この講義を通して(1)「近代」という社会科学の基礎概念との関係で「情報社会」を総合的に俯瞰する分析枠組みや、(2)「政治」「経済」「社会」に関する社会科学の調査研究を具体的な課題や争点に当てはめる方法論を身につけ、これから個別の関心領域に進んで、情報収集能力、表現能力、コミュニケーション能力を用いて課題を解決しゴールを達成する準備を整える。
教科書・参考書
  • (1)公文俊平「プラットフォーム化の21世紀と新文明への兆し」研究総合開発機構『NIRA研究報告書』2015年10月。https://www.nira.or.jp/pdf/1503report.pdf(2)村上泰亮『反古典の政治経済学』中央公論社、1992年。(3)(1)重松博之監修、野中郁次郎、鈴木寛、山内康英編著『ワイズガバメント―日本の政治過程と行財政システム』中央経済社、2021年。(4)C.A.ベイリ『近代世界の誕生―グローバルな連関と比較1780-1914』平田雅博、吉田正広、細川道久訳、名古屋大学出版会、2018年。
授業時間外の学修
各回の講義内容は繰り返し見返し、各回二時間ほど復習を行ってください。また、次回の学習内容についてもあらかじめ不明な単語や前提となる知識をWebで調べるなどして各回二時間ほど予習を行ってください。
特記事項
順次公開予定

授業計画

1
近代化とグローバリゼーション/基層にある3つのプロトコルから考える

第1回は情報社会を総合的に俯瞰する枠組みについて説明する。具体的には、政治的、経済的、社会的な活動のグローバル化という観点から世界システムの3層構造の概念を導入する。ここでいう世界システムは社会的な相互作用の共通プロトコルによって構成されている。

2
情報社会と近代化/国民国家、世界市場、インターネットおよびその相互作用

第2回の講義では以下の点について解説する。社会科学には近代(Modernity)について長い議論がある。本講義では近代を16世紀の西欧に始まり、その後次第にグローバルに拡大した、われわれにとってもっとも基本的な社会変容の一つと考える立場を取る。

3
コンピュータ・ネットワークの普及と情報革命を主導した情報通信政策

近代化の現段階としての情報化は、1990年代初頭の情報革命を契機として始まった。第3回は、情報革命の原動力となったインターネットをめぐる初期の政治過程や、既存の電気通信基盤との違いを取りあげる。

4
ユーティリティ産業の民営化/電気通信産業と電気産業の企業形態

今回の授業から情報社会の具体的な問題を取りあげる。第4回は、電気通信事業としてのインターネットを公益産業全般の視点から考える。公益産業を考える際に前提となるのがネットワーク産業とその外部性である。

5
日本の行財政と政治決定過程/毎年の予算はどのようにして決まるのか?

今回のテーマは情報社会の政治過程である。国際社会は主権国家から出来ている。現在の主権国家のほとんどは国民国家だ。国民国家の政治経済体制にはさまざまなものがある。国民国家はその成立時に憲法を制定して自らの政治経済体制を選択する。現在の日本の政治過程はどのようにして動いているのだろうか。

6
日本の安全保障とサイバーセキュリティ

国際社会における主権国家の重要な役割が安全保障体制の確立である。国連憲章は主権国家が取ることのできる安全保障の制度的枠組みを定めている。インターネットの発展にともなってサイバー空間が軍事活動に結び付くようになった。

7
ネットワークとデータ解析/オンライン・ビジネスの秘訣とは何か

オンライン・ビジネスのビッグ・データには日常世界とは異なるパターンが現れる。『Wired』誌元編集長のクリス・アンダーソンはオンライン・ビジネスと実店舗ビジネスの経営戦略の違いをロングテール理論として提起した。ロングテール理論を理解するためには、その背後にある確率分布や、その確率分布を作り出すメカニズムを考えることが大事だ。

8
DXとクラウドのビジネスモデル

現在のオンライン・ビジネスの開発と運用は事実上クラウドの利用を前提としている。これはサーバー機材とネットワーク回線を自組織で調達していた時代とはまったくの様変わりである。今回は、クラウド環境とデジタル・トランスフォーメーションについて取りあげる。

9
情報社会とマクロ経済学の諸理論

日本経済は第2次大戦後の復興期を経て、70年~80年代に高度経済成長を達成し、90年代に情報社会とバブル経済に突入した。村上泰亮教授は経済成長期の政治経済体制を開発主義と総括している。第9回の講義ではこれを導入として現在のマクロ経済学の諸理論を取りあげる。

10
シリコンバレーと地域情報化/地域経済の競争戦略

この講義では地域情報化を、情報と情報通信技術のより高度な利用を促進する情報社会のローカルな活動の総称と定義する。地域情報化政策については、総務省(旧郵政省)や経済産業省(旧通産省)だけでなく国土交通省(旧建設省や国土庁)から続く長い歴史がある。

11
情報化と知的財産権/オープンソースで動くインターネット

「知的財産権」とは,知的な創作活動によって何かを創り出した人に対して付与される権利だ。HPやSNSの投稿には、どのような知的財産権が付与されるのだろうか。これとは別にインターネットの基幹はオープンソースのソフトウェアで動いている。この講義では知的財産権の使い分けについて学ぶ。

12
批評理論とモダニティ/情報社会の認識論と存在論

第12回のテーマは近代の哲学である。16世紀の西欧に起源を持つこの近代化がどのような認識論的な特徴を持っていたのか、それが近代化の進展にともなってどのように変化したのかを考える。近代およびその認識論は、デカルト以降の西欧哲学の主題の1つとなってきたばかりでなく批評理論(literary theory)のテーマになってきた。

13
経営学と政策過程論/集合知の形成

第13回のテーマは経営学に学ぶ政治学である。民主主義的な政策形成とは、社会に伏在する政治課題を政治決定過程に持ち込んで政策的な解決を与えるという社会的なプロセスに他ならない。これは政策決定を社会的な集合知の形成過程と捉えることになる。この点について日本を代表する経営学者の野中先生から学ぶ。

14
リベラリズム=自由主義と正義の諸構想

社会に一定のまとまりや秩序を維持する制度的な手続きや市民の振る舞い方を対象とする研究領域として政治学(political theory)もしくは政治哲学(political philosophy)がある。いまSNSにはネトウヨやパヨクが跋扈している。情報社会の政治思想や政治哲学はどのような理由で、またどのように変化しているのだろうか。

15
社会思想と公共=publicの諸概念/リベラリズムと近代思想の再検討

第15回の講義では、最初の分析枠組みに立ち戻って、情報社会の現状分析と、この講義で取りあげた政治経済体制や正義の諸構想がどのように関係するのかを考える。ここで重要になるのは、国家化、産業化、情報化に関する段階論の見極めである。その理由は、正義論の諸構想が国民国家の役割や産業社会の諸課題と結び付いているからに他ならない。

関連科目