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科目の概要

現代社会・科学において、統計学はデータから結論を導き出す装置として、特権的な役割を担っている。しかしなぜ統計学は、こうした役割を果たすことができるのだろうか?本講義では、統計という語で一般にイメージされるような数学的操作ではなく、むしろそうした数理の背景にある「考え方」を哲学的観点から捉えることで、その答えを探る。

科目情報

履修想定年次
3年次
単位数
2単位
開講Q
1Q、3Q
科目区分
選択
授業の方法
オンデマンド科目
評価方法
確認レポート 50% , 単位認定試験 50%
科目コード
HUM-3-C1-1030-001
到達目標
統計学とはどのようなことをする学問であり、科学的推論のなかでどのような役割を果たしているのか、という概観を、複雑な数式に頼らず理解できるようになる。データの要約・仮説の検証・予測・因果推論など、一言で「推論」といっても多様な形式があり、またそうした目的上の違いに応じて異なった統計学的手法が必要とされることを知る。それらの目的はそれぞれ異なった難しさをはらんでいるが、そうした難しさを理解した上で、それに対して統計学ができること/できないことを見定められるようになる。
教科書・参考書
  • 【教科書】オリジナル教材【参考書】『統計学を哲学する』(大塚淳/名古屋大学出版会、2020年)
授業時間外の学修
各回の講義内容は繰り返し見返し、各回二時間ほど復習を行う。また、次回の学習内容についてもあらかじめ不明な単語や前提となる知識をWebで調べるなどして各回二時間ほど予習を行う。
特記事項
順次公開予定

授業計画

1
オリエンテーション

統計学の多様なあり方を紹介し、各種統計学の背後には異なった思想的背景があること、それらの哲学的前提を見極めることで各統計の「やりたいこと」と「やれること」が明確に理解できるようになることを確認する。

2
記述統計と実証主義

データを要約する技術としての記述統計の目的とその手法を概観した後、その実証主義的理念を確認し、そこでは予測が不可能であることを理解する

3
推測統計の存在論1:確率モデルと「自然の斉一性」

帰納推論は根本的に不可能であるというヒュームの難題を紹介した後、推測統計は「自然の斉一性」として確率モデルを導入することによって帰納推論を行うことを理解する。

4
推測統計の存在論2:統計モデルと「自然種」

分布族や回帰モデルなどの「統計モデル」の目的と役割を紹介し、それによって尤度の計算や問題の分類が可能になることを学ぶ。

5
確率の意味論

確率解釈の主観主義と客観主義(頻度主義)、および両者の利点と欠点を学ぶ。

6
科学的正当化と統計学:認識論への招待

科学的仮説の確証における「正当化」の重要性とそこにおいて統計学が果たす役割、および統計学的仮説の正当化はどのように行われるのかを学ぶ。

7
内在主義的認識論とベイズ統計

ベイズ統計の基本的思想を、その内在主義認識論的な特徴から理解した上で、ベイズ定理を用いた推論の概観を紹介する。

8
より良いベイズ推論を目指して

ベイズ的認識論の問題と、その客観性を担保するための様々な取り組み(事前分布・尤度の設定)を学ぶ。

9
外在主義的認識論と頻度主義統計

頻度主義統計の基本的思想を、その外在主義認識論的な特徴から理解した上で、その実装の一事例としての検定の枠組みを学ぶ。

10
より良い頻度主義統計を目指して

頻度主義認識論の問題と、その客観性を確保するための様々な取り組み(オープンデータ、ブートストラップ)を学ぶ。

11
発展的話題1:モデル選択と予測主義

回帰モデルを用いた予測問題と、モデルの推定方法を紹介する。また複数候補から優れたモデルを選ぶモデル選択理論の動機と、その基準としてのAICを紹介する。

12
予測主義の哲学的含意

モデルの精確な同定と予測能力の向上は必ずしも一致せず、ときに相反する関係にあることを学び、モデル選択は後者のプラグマティックな目的に関心を有することを理解する。

13
発展的話題2:因果推論

因果と相関の間の根本的な区別を確認した後、因果関係を同定するための複数の方向性(介入・無作為化・条件付け)を紹介する。

14
因果推論はなぜ難しい?

因果推論の反事実的性格を理解し、それによって起因する因果推論の根本問題を確認する。また、因果関係を表す道具立てとしての因果グラフを紹介する。

15
まとめ

本授業を振り返り、各トピックの繋がりを理解する。特に、それぞれの統計的トピックの位置づけを、存在論的/意味論的/認識論的な対立軸を通して理解する。

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